【移動都市 モータル・エンジン】は巨大都市がキャタピラーで移動する前代未聞のSFだ

「モータルエンジン」はフィリップ・リーヴ原作の同名SF小説をもとに、ロード・オブ・ザ・リングとホビットのシリーズで有名なピーター・ジャクソンがプロデューサーのひとりとして製作に関わっています。壊滅的な「60分戦争」後、移動都市として生き残ったロンドンとその他の都市との戦いを描くSF大作です。その徹底的なロンドンの野心的前進を防ぐため、ひとりの少女が突然ロンドンに現れました…。

製作国:アメリカ
公開:2018年12月(日本公開:2019年3月)
監督:クリスチャン・リヴァース
原作:フィリップ・リーヴ
キャスト:ヒューゴ・ウィーヴィング、ロバート・シーハン、ヘラ・ヒルマー、ジハエ、スティーヴンラング

弱肉強食の未来世界で巨大化する「ロンドン」と復讐を誓う少女ヘスター

「移動都市 モータル・エンジン」はフィリップ・リーヴの青少年向けSFファンタジー四部作です。60分戦争(それがどんなものだったのかは映画の中では明かされていませんが)のせいでほとんどの文明が絶滅寸前となった何百年も先の未来と、「移動都市」としてキャタピラーの上に全てを載せてひたすら資源を求めてより小さな「都市」をのみこむ巨大なロンドンが物語の中心となっています。

青少年向けの小説が原作なので、もちろん主人公たちは10代の少年少女です。

ロンドンの住人トム(ロバート・シーハン)は歴史学ギルドの見習いで、何百年も前の古いテクノロジーの遺物を集めています(つまり、たった今わたしたちが使っているiPhoneやコンピューター、そしてアニメーションのミニヨンたちの銅像などですが)。

そして顔にナイフ傷を持つヘスターは、ロンドンの歴史学ギルドの長であるヴァレンタイン(ヒューゴ・ウィーヴィング)を母の仇として復讐しようとしましたが、トムに邪魔されて荒野に放り出されてしまいます。しかし、秘密を知ったトムもまたヴァレンタインによって突き落とされ、二人は文明とは切り離された荒野に取り残されます。それどころか、難民たちに捕まって奴隷としてセリにかけられることになりますが、そこに現れたのが…。

 

息をのむ壮大な未来風景とCGを駆使したアクションに圧倒されるが…

都市がひとつもない広大な未来の風景や、セント・ピーターズ教会や図書館や公園まである巨大なロンドン移動都市などはとても興味深く、目を瞠るばかりの映像としてわたしたちを圧倒します。しかも、アクションとしての戦闘シーンなどはCGを駆使して自由自在に想像でしかない未来世界を映像としてわたしたちに鮮やかに見せてくれます。

ただし、原作小説の映画化ではその原作の醍醐味を上手く引き出している映画とどうもつまみ食いだけしかできないで終わる映画とがあって、わたしはそのどちらにもこの映画が属していないような気がするのです。

つまり、CGを駆使した未来世界の映像化に成功しているにもかかわらず、ストーリーの中の「人間たち」がうまく描ききれていないからです。

ヒューゴ・ウィーヴィングのヴァレンタインはその悪役ぶりを上手くこなしていますが、なぜそう考えるに至ったかがいまだに疑問として残ります。また、作品中主役たちを食ってしまうほど光っていた脇役ふたりを、さらりと小さなエピソードとして流してしまった脚本にも少々不満を持ってしまいました。

スティーブン・ラングとジハエ

「アバター」に出演していた「アバターと互角に戦える怖くて強くて悪い大佐」を覚えていますか? あまりの眼光の鋭さに、見ているこちらがビビりそうなほどでした。その大佐役だったスティーブン・ラングがこの映画にも出ています。あれ?と思ったでしょうが、実は全てCGでして、たぶん撮影時には青いスーツで顔に沢山斑点をつけて演技していたことでしょう。

ヘスターを殺すためにヴァレンタインが牢獄から逃亡させたシュリークです。かつて孤児となったヘスターを拾いずっと育ててきた「命の恩人」と言ってもよい存在でしたが、自分と同じ不老不死のロボットとなることを約束したにもかかわらず、ヘスターは彼のもとから逃げ出してしまいました。裏切られたことから愛情を憎悪に変えたシュリークは、ヘスターを殺すためにヴァレンタインに送られてきます。

以前は「人間」だったシュリークにも人間としての生活がありました。子供もいたようです。その悲しい鉄の存在として、CGとは言え、スティーブン・ラングが印象深い役づくりをしていて印象に残っています。

また、もうひとりのジハエは韓国人の歌手・女優ですが、このひとがイヤに強いのです。最初の登場からして特徴のあるサングラス姿、次々と敵を倒していくアクションがすばらしいです。無表情の中にも強い意志を感じさせる眼力と鮮やかで華麗な立ち回りで、さっと出てきてさっといなくなってしまったのがとても残念です。

 

アイデアとしての移動都市はマジですごいので見ておいて損はナシ

CGというものは、最初出てきたばかりのころはもうビックリの連続で、あれよあれよと口を大きくぽかんと開けて見入ってしまいましたが、今ではそれがほとんど常識になってしまい、「またか」という感を否めません。ですから、これからのCG業界はもう新しい視点と展開を考えなければならない時期に来ていると思います。

その点、「移動都市 モータル・エンジン」はこの移動都市を実在するもののように出現させたことで一歩前進しています。まあストーリーは単純ですから、CGの未来を垣間見ながら息をもつかせぬアクションに酔いしれて2時間たっぷりすごすのもいいのではないでしょうか。

 

オススメ度
★★★☆☆
未来への想像をかきたてるCG映像と戦闘シーンの豪華さ。細かい「??」はあるけれど、ストーリーが単純なだけにあまり気にせず楽しんでほしい。

ABOUTこの記事をかいた人

gaby がび
オーストラリア某私立校日本語・フランス語教師。休暇はほとんどタイの首都に滞在しています。 英・独(スイス訛りあり)・仏の多国語遣いですが、一番得意なのはもちろん日本語です。タイ語は買い物ができる程度。ツイートとブログと料理と映画でストレス解消中。映画は基本的に独りで観に行くのが好きです。 映画鑑賞の記録はこちらから。