国税局調査官のハロルドはカタブツ人間で、毎日同じことを同じ時間に同じ回数だけしている何の面白みもない男性です。ところが、突然頭の中で誰かが彼の一挙一投足を話し始めます。その声の持ち主は…「主人公を最後に殺すことで有名な」小説家でした。コメディー俳優ウィル・フェレルが、今までやったことのない役柄で光っています。
監督:マーク・フォースター
キャスト:ウィル・フェレル、マギー・ギレンホール、ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、クィーン・ラティファ
ウィル・フェレルはおバカなコメディーばかりだった
ウィル・フェレルというコメディー俳優は、あまり日本では知られていないような気がします。
どちらかというと「アタマがちょっとどこかおかしくて、子供っぽくてバカげたことばかりやるヤツをニコリともせず演じる俳優」というイメージが強いのです。
いくつか彼が主演する映画は観ていますが、それほど面白いと感じたこともありません。つまり、わたしの中の「笑い」の感性に合っていなかったのだと思います。
突然の「声」にとまどうハロルドは国税局の監査官
その彼が演じるのが国税局の監査官、あんまり面白みのない堅物ハロルド・クリックです。
ハロルドはある日突然、自分の生活を「文学的に」表現する「声」を聞くようになります。その「声」は彼の頭の中にだけ響くものらしく、誰もハロルドを信じようとしません。
彼が恋をするのがマギー・ギレンホール演じるアナ・パスカル。「税金を払うことが信条に反する」とする菓子屋のオーナーです。このふたりが段々と惹かれ合っていく様が、なんとも柔らかく甘く切ない雰囲気となっています。
まさか、ウィル・フェレルとマギー・ギレンホールが…と思ったけれど、息の合ったカップルで心が暖かくなるシーンをいくつも見せてくれました。
そして、「声」は何とスランプ中の小説家(エマ・トンプソン)の「小説としてのハロルド・クリックの人生」だったのです。しかも彼女のヒット小説の数々は、スランプの始まった10年前まで、主人公が必ず最後に死ぬという結末。
さて、実在の人物であるハロルドの運命はどうなるのでしょう…。
ウィル・フェレルの抑えた演技がコメディーを超えた
コメディーではありますが、ウィル・フェレルがいつもの「やり過ぎのバカなオッサン」を抑えて、外から与えられた喜劇(または悲劇)に悲しくもおかしくオロオロとするさまが実にいいのです。こんなにいい俳優だったのか、と少々驚きました。
そして、これはストーリーの勝利でもあるのです。
10年に一度の傑作か、実在のひとの幸福か。芸術か、市井のささやかな人生か。視聴者への問いかけに考えさせられます。
英語名は「Stranger than Fiction」(直訳すれば、「フィクションよりも奇妙な…」)で、たぶんジム・ジャームッシュ監督の1986年の名作「Stranger than Paradise」をもじっているのでしょう。
日本語名を探したら「主人公は僕だった」になっていました。
ウィル・フェレルは日本ではそれほど人気ではないけれど、この作品だけは光っているのでぜひ観てほしい。エマ・トンプソンのスランプ気味の小説家も面白いよ。