シネマ界では、たとえ主役だって交代したり降板してしまったりすることがあります。それが凶と出るか吉と出るか、興行成績が出てみなければわかりません。
でも、主役変更でビックリするほどヒットしてしまった映画も少なくないのです。その中でも、わたしのオススメ映画を5つ紹介しようと思います。
1.ターミネーター(1984)
ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター」は最初わたしたちが観たあのヒットSF映画とはキャストからして違っていました。
彼が考えていた「未来から現代に潜入するマシーン」はあまり目立たない「人間」のようなモノで、自分の友達でもある俳優ランス・ヘンリクセンをその「マシーン」役にと決めていたのです。
この映画のネタを配給会社に売り込むときには、ランス・ヘンリクセンに「ターミネーター」の扮装をさせて一緒に連れていったくらいです。
運良く配給会社から承諾を得てたキャメロン監督は、のちにカイル・リース役(ターミネーターを追って現代にやってきた人間)のオーディションに現れたアーノルド・シュワルツェネッガーを見て考えを変えました。
監督の頭の中では、「ターミネーター」が完璧なサイボーグの悪役として描かれ始めたのです。
ランス・ヘンリクセンはターミネーター役を逃しましたが、「ターミネーター」でも警官役で出演していましたし、2年後の「エイリアン」ではアンドロイドのビショップとしてキャメロン監督に迎えられています。
「ターミネーター」は、こうして現代の世界に違和感なく溶け込めるような目立たない人間ロボットT-800ではなく、シュワルツネッガーの完璧な彫像のような身体とその無表情なロボット風演技によって、ジェームズ・キャメロンの最高傑作のひとつと言われるようになったのです。
2.バック・トゥー・ザ・フューチャー(1985)
三部作が全部面白い稀有なヒット作品。わたしもDVDセットで全て持っています。
マイケル・J・フォックスは実はロバート・ゼメキス監督が最初から心に決めていた主役のマーティー・マクフライでした。
ところが、そのころ絶頂期にあったマイケルはテレビコメディーシリーズの「ファミリータイ」撮影と折り合いが合わず、結局二番目の候補だったエリック・ストルツに主役を当てることになりました。エリック・ストルツはまだそれほど有名というわけではなく、徐々に役がつき始めていた新進俳優でした。
ところが撮影がちょうど1ヶ月を過ぎたころ、ゼメキス監督はこのエリック・ストルツがどうも役柄に合わないと気づき始めたようです。そして、予算に3百万ドルを追加して(つまりエリック・ストルツへの解約料も含めて)主役変更となりました。
そのころ少し仕事が一段落していたマイケル・J・フォックスは、テレビショーとバック・トゥー・ザ・フューチャーの撮影を同時進行させることに同意、イチから撮影を始めたのです。
かわいそうなのはエリック・ストルツですが、彼には残念ながらマイケル・J・フォックスのひとを魅了するカリスマ性とコメディーのセンスが欠けていたようです。どちらかというとドラマのひとですから、無理もないかもしれません。
マイケル・J・フォックスはマーティーになるべくしてなった配役ですし、その後のヒットを見れば主役交代はベストの結果を産んだと言えると思います。
3.X-MEN(2000)
ヒュー・ジャックマンじゃないウルヴァリンなんて…考えられますか?
それほど、彼はX-MENシリーズの看板となっているのです。
でも、第一作目の「X-MEN」では、ブライアン・シンガー監督の最初のお目当てはヒュー・ジャックマンではありませんでした。
まずシンガー監督はラッセル・クロウに目をつけましたが、これは敢えなく断られています。そして、そのときラッセル・クロウ自身が友達のヒュー・ジャックマンを推薦していますが、結局ダグリー・スコットにウルヴァリン役を与えて契約しました。
ところが撮影が始まって数週間たったあと、その前に契約してあった映画「ミッション・インポッシブル II」撮影の遅れのために、当のダグリー・スコットが役を降りてしまったのです。
監督は、代わりとしてそのころはまだハリウッドでは無名だったオーストラリア人俳優ヒュー・ジャックマンに仕方なくウルヴァリン役を与えることになりました。これが真相です。
もっとも、その後のヒュー・ジャックマンのウルヴァリンとしての華々しい活躍を見れば、次々とヒット作を生みだすシリーズもうなずけると思います。
4.ロード・オブ・ザ・リング(2001)
言わずと知れたピーター・ジャクソン監督のアドベンチャー大作ですが、この作品の重要な主役のひとり、アラゴン役は最初ダニエル・デイ・ルイスとニコラス・ケイジへと打診され、いずれも断られています。
そして次に登場したのが、あまり名前の知られていないアイルランド人俳優スチュアート・タウンゼントでした。彼にとっては文句なしの大抜擢です。
それから何ヶ月も訓練と準備に費やしましたが、残念ながら撮影数週間前に約から降ろされてしまいます。理由は、「アラゴン役をやるには若すぎるから」でした。
かわいそうなスチュアート・タウンゼントは、自らの準備期間さえ支払われなかったと言われています。結局、そのまま俳優業を辞めてしまいました。
ヴィゴ・モーテンセンは、そのスチュアート・タウンゼント解雇から3日後に、アラゴン役として契約しています。
つまり準備期間もあまりなく、彼の大変なストレスがうかがい知れますが、結局アラゴンとしては彼の他にはいないというほどのヒット作となりました。
5.ゲティ家の身代金(2018)
大富豪のゲティ。孫が誘拐されても身代金支払いを渋るほどの守銭奴でした。その実話をもとにしたサスペンスドラマです。
ただし、この映画は映画自体が評価されるより以前に、前代未聞の主役降板によって有名になりました。
ゲティ役のケビン・スペイシーが14歳の少年にセクハラをしたという報道が出たからです。その後の顛末でさらに公に告発を受けたケビン・スペイシーのスキャンダルを受けて、公開1ヶ月前にもかかわらずケビン・スペイシーを降板させ、新たに代役としてクリストファー・プラマーを起用したのです。
代役と言えど、はじめからリドリー・スコット監督の指名はクリストファー・プラマーでした。それを配給会社からの「もっと知名度のある俳優を使え」という命令に従って、ケビン・スペイシーに役を与えたのでした。
さて5週間を切った公開までに、1千万ドルをかけた再撮影と元の映像の合成作業が始まりました。編集は深夜までに及び、劇場公開版が完成したのは公開のなんと2週間前だということです。
結果は返って「セクハラに反対する配給会社」というポジティブな宣伝にも役立ったようです。
また、ケビン・スペイシーのように年齢を上げる特殊メイクを使わないため、シワも自然に見え、クリストファー・プラマーの老獪な演技はアカデミー賞助演男優賞にもノミネートされました。
主役交代劇はまだまだ色々ありますが、今回はこのへんで。